【背景と日本の経済政策】
「直接金融」という言葉をご存知だろうか?会社が一般のマーケットから直接資金を調達する事を言う。一般的にはこれを株式の販売という形で実施し資本金という科目で会社内に取り入れる。よく、事業の元手という、あのもとでのことだ。これが資本主義の原理原則で投資自己責任と言って投資の責任は投資家が負うが投資した金額以上の責任は負わない有限責任という制度が資本主義だ。
話は硬くなったが、こうした有限責任のおかげで社長は、思い切って成功を信じて突き進むことができるわけだ。
これが資本主義のいいところ。のはずなのだが日本は実際にはそうなっていない。そうなっているのはかつて発展途上国といわれた東南アジアの各国ばかりだ。その結果日本の国力は大きく損なわれた。特に中小企業の経営能力はG D P対比で世界最低レベルと言われるまでに落ち込んでいる。30年前は世界1位だった国際競争力も2022年はまさかの34位まで転落した。まー。私から見ても「財務は税理士に任せているからよくわからない」という社長が会社を存続できているぬるい呑気な国だなぁと思える。
「このままではいけない」と思うのは何も経営コンサルタントだけではない。超一流大学を優秀な成績で卒業した日本の官僚の方々ならたとえ法学部出身だらけであったとしても気がついているはずだ。
ここ数年で銀行を取り巻く金融庁の態度が大きく変わった。
・金融庁の検査マニュアルの廃止=銀行経営の自由化
・金融庁から銀行への事業性評価の要請=過去主義を捨て未来主義への転換
・株式投資型クラウドファンディング=中小企業経営能力向上支援
・持株5%ルールの実質自由化=銀行によるM&A解禁
・連帯保証の原則禁止=中小企業経営への喝
これらがこの5年で立て続けに起こっている。これが偶然起こるはずがない。日本の経済政策の大きな転換とみる。
金融庁の検査マニュアルは重箱の隅を突くような意地悪で容赦ない金融庁による銀行信金の経営統制だった。1990年のバブル崩壊に伴う金融危機を乗り切るための国家による金融統制だ。お隣の共産主義の国の話ではないつい5年前まで日本でも金融界では同じことがされていたのだ。この間に融資現場を知っていた当時バリバリの金融マンは既に65歳オーバー既に現役ではない。つまり日本の金融界は現場審査能力を持っている人間が一人もいなくなってしまったのだ。この状態でのマニュアルの廃止。「これまでの重箱の隅を突くような(中略)をやめ、」と金融庁のH Pに書いてあった。これは笑った。わかってやってたんかい。さて、突然ほっぽり出された各銀行の経営企画マンや経営者の腕が試される。古い体質の地銀や信金は淘汰が進むんだろうなぁ。今まで国家権力に守られてきたんだから少しは苦労をしろってちょっと意地悪な気持ちになってしまう。
さらに追い打ちをかけるように、直接金融の解禁だ。これまで「貸してやろうか」的な絶対的な優位な立場だった銀行。これは借りるという方法以外に選択肢がなかったからやってこれたが、株式投資型クラウドファンディングは返済不要でもし失敗しても融資のように取り立てに負われる心配がない。それどころか150人もの株主という名のアドバイザーが経営を支援してくれる制度が現れた。これで銀行さんが少しは危機感と競争意識を持ってくれるといいんだけど、、、と願ってしまう。
社長にとって直接金融は銀行と違って経営能力に磨きをかける制度でもある。日本の銀行は融資を断る際に自己防衛を優先して、断る理由を言わない。ましてや改善提案などしない。他国のように社会的使命感を持つ銀行は融資を断る際にもその理由を明確に告げるので社長としては改善点が明確になり自己研鑽の道筋が見える。全国各地でこれが行われたら30年経てば国力がひっくり返るのも当然だ。ひるがえって日本でも直接金融の場合、大手を除いて一流と言われる投資家は投資できない理由を明確にすることがその社長への敬意だと考える。投資されなくても挑戦するだけで経営能力が磨ける言われる所以だ。念のため繰り返す日本の大手ベンチャー投資機関、ベンチャーキャピタルはお世辞にも一流とは、、、要注意だ。
銀行の5%ルールをご存知ない社長は多いが、最近まで銀行は融資先企業の株式を5%以上持ってはいけないという行政指導があった。銀行による支配を禁止するためだったのだが、なんとこれが実質撤廃された。「地元経済に大きな影響がある場合に限り、5%ルールは撤廃する」という、大きな影響かどうかの判断は銀行に委ねられるとするとこれは「原則自由」ってこと。これって社長にとっては一大事だ。自分の会社があの銀行・信金の子会社になるってこと。そうなれば社長を任命するのはその銀行に委ねられる。なぜそんなことを金融庁は許したのか?
理由は二つあって、一つは中小零細銀行信用金庫の存続の為。これまで融資残高を正常な債権から延滞している不良債権まで5段階に分けて安全度を測っていたのだけど、バブル崩壊以降の景気の低迷とコロナ融資で結構甘あまな評価が許されていた。本当は焦げつきそうな融資であっても、少し危ないかもしれない程度の評価が許されていた。これが厳しく変わる。すると銀行の融資残高が焦げつきそうな比率が高いぞと国際的に見なされる(これB I S規制と言う)。そうすると信用不安になるので国としても何としても焦げつきそうな債権は回収したいわけだ。もし、あなたがコロナの特別融資やリスケとかして金利しか払ってない状態の会社の社長だったら、急に3ヶ月後から元本と金利の支払い再開できる?無理でしょ。銀行もそんなこと百も承知で返済を迫ってくるかもしれない。返す刀でこう言われたらどうする?「じゃあ、社長借金なしにしましょう。その代わり貴社の株ください」これ断れないでしょ。D E S(デス)という手法です。銀行はめでたく不良債権がなくなりました。これが理由の一つ目。
二つ目の理由。こうして銀行は従業員付き顧客付きの貴社を手に入れるわけだから、経営力のある人を連れてきて社長にして然るべきところに売却すればM&A手数料が入ってくる。銀行からしたら災い転じて福となす。もちろん元オーナーの前社長は失業だ。
金融庁も飴と鞭の政策。社長にとって厳しい政策転換だけどその代わりとして「社長による連帯保証の原則禁止」が発表された。会社による借入れの責任を社長個人に負わせなくていいというもの。遅きに過ぎるとは思うけれどこれでようやく抜かれてしまった東南アジア各国を再度キャッチアップする条件が整った。